進士 それでは少し具体的に、石川さんのやってこられたプロジェクトを通しながら景観とまちづくりの話をしていただきます。
石川 私は、「地方都市のチャレンジ」ということで岐阜県の各務ヶ原市で10年前から市民の皆さんと一緒にやっております。決して素晴らしい理想のまちではありません。拡大の時代に田園を切り崩しながらやってきて、これからどっちに向いていけばいいかというのが10年前の状態でした。
世界のいろんなまちを見てきて、確信を持って言えることは、良い計画がないまちは決して良くはなっていないということです。夢を形にして、そのまちの人たちがこういうふうに心を合わせようというものを持っているところが良いまちです。
ですから、市長さんに「まず計画を作りましょう」と提案しました。だれが見ても分かる最小限の骨格を作るということで、「水と緑の回廊計画」を市民の皆さんと一緒に作りました。まちの回廊、川の回廊、森の回廊というのを作って、その交わるところを重点的に整備する場所と決めました。
大正時代からの農林学校で、まちの誇りだった岐阜大学の移転跡地が荒れ果てたまま在りました。岐阜大学の歴史を残していこう、そのためには絶対に切り売りさせないということで、5年間かけて貯金をしてこの土地を買ったのです。ここに森をつくることにし、着々と整備を続けております。
たまたま、このまちは「冬のソナタ」の舞台である韓国のチュンチョン(春川市)と姉妹都市でした。メタセコイヤの並木もあり景色が同じだというので、私がチュンチョンに行きまして、映画に出てきたベンチを「もらえませんか」と恐る恐る頼んだら、「いいですよ」と言ってくださったのです。船に乗せてベンチを持ってきて置いたら、私みたいなオバサンが観光バスでみんな来るんですよ。
また、並木をライトアップすることにし、市役所の女性職員と話し合い、やっぱり「冬のソナタ」だから白にしました。観光など何も関係ないまちだったのですが、たくさん人が来るようになりました。学問の場所ですので「学びの森プロムナード」という立派な名前をつけたのですが、だれもそういうふうに呼んでくれませんで、「冬ソナストリート」と言われています。
とうとう今年の春、中部学院という大学の誘致に成功しました。こんなに良い「学びの森」があるから来てくださいと頼んで、やっと1つ来てくれたのです。それは本当に大きな喜びです。
また、区画整理で小さな公園がたくさんありますが、埋もれているので、そこを「自分たちのまちのお庭」にしていきましょうとワークショップをしています。私は東京にいますので、市役所の職員の方々にアドバイスしまして、3年間ぐらいかかりましたが、本当に上手になりました。
大事なことは、自然環境の情報というものを単なるノスタルジアではなく、しっかりしたデータベースを作って、学術的基礎をもとに、森をどんなふうに復元していくかというプロセスプランニングをしませんと、本当の環境は回復できません。
進士 お話を伺っていて、「継続は力なり」と言いますが、景観づくりも時間をかけてきちっと積み上げ、そのプロセスでいろんな人たちを巻き込んでいく。計画論も運動論も、この辺で少し見直しをして、まちづくりも国づくりも方向転換をしなければいけないと感じましたが、これからそういう議論を進めたいと思いますが、岸田さんにご質問ありますか。
潮谷 熊本県の場合、景観条例を早く作ったということで、このたびの景観法の施行に対して、きちっとした計画を改めて策定するというところが弱かったのではないかということをしみじみ感じたところであります。ですから、帰ったらすぐ計画策定に取り組みたいと思います。
岸田 ご相談にお越しいただいたことがございまして、非常にご熱心に取り組んでいただいていると思っておりますし、熊本県のように阿蘇という広域的な景観をお持ちの県の取り組みは、県にリーダーシップをとっていただいたらいいのではないかと思っておりますので、ぜひよろしくお願いいたします。
清原 景観に関しては、最初は「守る」という観点から取り組みを始められたところが多いのですが、三鷹市が現場で取り組んでいるのは「守る」だけではなく、「創る」とか「生かす」とか「支える」というように統合化しているわけです。ですから必ずしも「景観」という言葉を条例とか計画の中に含めていないものでも、景観法の趣旨とか理念に適合的な取り組みをしている自治体はあると思います。
国で把握されるときは、一つの形で整理をされることが多いのですが、国の法律は大変大きな影響を与えるものですので、ぜひこれからは数という部分だけではなくて、取り組みの特長とか、個性とか狙い、とりわけ「支える」手法のところでの情報提供を国にお願いしたいと感じました。
法律ならではの良さを生かして
岸田 ちなみに、三鷹市の緑化率をというのは、「景観緑三法」でできた新しい仕組みを早速全国で一番に使っていただいたということで、ピタッと合うものから使っていただいていると理解しております。
市長が、数ではないとおっしゃられたのは、我々も内心そう思っています。数だけいっぱい作っても役に立ってないと言われたらそれで終わりです。ただ、法律ならではの良さ、法律でしかできないこともございます。例えば、条例ですと国や県が管理している道路や川に対して何も言えないのですが、景観計画を使っていただくと、そういうものを調整し合って都市の骨格と事業部分と併せて一緒にできるとか、うまみもございますので、そういうところをうまく使っていただいて、元の条例の良さを生かしながらやっていけるように、我々はもっと宣伝していかねばならないと思っております。
進士 それでは、一通りパネリストにお話しいただきましたので、会場の皆さんからご意見があったらご発言いただきたいと思いますが。
清野茂次氏(美し国づくり協会会員、オリエンタルコンサルタンツ相談役名誉会長) 再開発に伴って、地方都市も含めて超高層ビルがどんどん建設され、まちの伝統的な景観を壊してしまう。日本の伝統的な「美し国」は壊れてしまうのではないかという懸念を強く持っております。
もう1つは農村問題です。特に山間農村が過疎化して、山は荒れ、田んぼは荒れ、棚田が荒れる現象がいたるところに出ている。これを止めないことには「美し国づくり」は単なるお題目にすぎないのではないかと、強い危機感を持っております。経済性の原理で言ったら止まらない。だから環境保全という大きなコスト評価をして、止める工夫を新たに考えないといけない。単なる景観という問題だけでは片付かない。しかし、それが景観の原点であると考えますので、そういう点に対するサジェスチョンがありましたらお願いしたいと思います。
進士 都市の問題と農村の問題というのは裏腹の関係もあるでしょうから、両方が連動していますね。ほかにいかがでしょうか。
向隆志氏(新宿区役所) 東京都と協議を進めているところですが、うちの首長も景観行政団体になりたいということで、陣頭で指揮をとっています。
そこで、大都市で景観行政をやっていくに当たって、こういう視点が新しく取り入れられればよいのではないかというお知恵があれば、ぜひ拝借できればと思っております。
潮谷 熊本県の場合、例えば景観形成地域指定をしております。南阿蘇、天草、人吉など6地域ですが、高原風景とか田園風景という県土を代表するような景観を持つ地域を指定し、その中において建築行為を成す場合には届出の義務を定めています。
また、熊本県は「景観賞」の歴史を長く持っていまして、例えば「地域景観賞」とか、「緑と水の景観賞」とか、「広告景観賞」という見える形でテーマを決めております。景観が自分たちにどういう影響を与え、それが賞に値するのかということで、内容的にもレベルが高いものを持っていると思います。そういう形の中で歯止めを考えています。
その一方で再開発と絡んで、例えば農振地域の規制を外してほしいという要望がものすごくありまして、なかなか悩ましい状態がございます。
もう1つ、南阿蘇は開発が非常に遅れたところですが、自然景観が豊かに残っていますので、妙な開発をするのはやめましょうということを2年かけてささやき続けて、この5月、「南阿蘇えほんのくに」ということで全国に発信いたします。絵本のようにきれいなところに点在する美術館をつないでいくことと、全国から絵本の好きな方、絵本作家を呼ぶことにいたしました。最初は行政が音頭取りをしようと思ったのですが、それでは一過性で終わるということで地元に下ろしました。町村合併の中で、南阿蘇村という形で「村」をそのまま残したところでもあります。やはり、あの手この手でやっていかないとビルラッシュに巻き込まれてしまう恐れがあると思います。
清原 先ほど、都市の開発、農村の保全ということから問題提起をいただきましたし、大都市における取り組みのあり方などについてもご質問があったのですが、地域の景観をよくしようとするときには景観法の成立は大変大きなパワーがあると思うのですが、関連して改めていただきたいと思うこともあります。
大都市にも生産緑地農地があって、その保全も、全体的な日本の国土の緑と水を守る上で大変重要です。そこでは農地法の問題とか相続税の問題が関係してまいります。後継者不足は「多自然居住地域」と呼ばれる過疎化が進む農村や山村だけの課題ではなく、都市でも開発等の中で一番壊されやすいのが生産緑地で、相続税は待ったなしですから、そこでどうしても換金されて、物納ではなくて高層のものになりがちです。ですから景観法だけでなく、農地に関わるもの、税制に関しても有効なあり方を進めていかないと「美し国」にはならないというのが1点。
大都市のことで言えば、3大都市圏は用途地域を基礎自治体が決めることができない。東京の場合、都がバランスを持って規定されるものですから、私たちは地区計画を作るか一生懸命考えて特別用途を指定していかなければならない。ですから、自治権があるやなしやと思いましたので、国土交通省に問題提起をさせていただきました。
そうすると、国土交通省もわかっていて、東京都の職員さんが国土交通省に交流人事で行っている。国と都と自治体の風通しをよくすることでしか国土づくりはできないということで、人的交流も含めて風通しのよい取り組みをしてくださっていることもわかりましたが、制度はそのままですから、三鷹市は東京都との人事交流で実質的に地域のまちづくりをさせていただいています。
効果は使用前、使用後で分かる
石川 私は景観法がオールマイティーだとは思いません。それぞれ特色があって必要があるからいろんな法律がある。特に「緑」は、何でこんなにたくさんあるのかと頭が痛くなりますが、それは財源の問題なのです。法律というのは自治体が財源的にどれだけ責任を持って担保できるかということの裏返しだと思います。
そういう意味で、景観法がどういうところで役に立つのか、これから事例がいっぱい出てくると思います。その事例を「美し国づくり」のシンポジウムなどで積極的に紹介していって、「なるほど、そういう使い方があるのだ」「これはグッドアイデアだ」と。その結果は「使用前」「使用後」で、美しいと共感する気持ちが、もてるかどうかで分かります。