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糸玉づくり
 元来、人間には身の回りの住まう環境を清々しくしたいというプラス思考がある。そのプラス思考は、地域社会スケールでの経済・民俗・文化等の激しい変転を受けて個人から集団へと一定の塊となって収斂沈殿して行き、時として気質・風土に定着してその地の精神文化の根っ子をなす。その根っ子とは例えば糸玉の芯のようなものと知るとよい。

 まちの景観づくりとは、さまざまな立場・要素の色糸で編み上げられたこの「糸玉づくり」のようなもので、その芯が強く(プラス思考を強め)ないと望ましいかたちを成さない。そしてその芯の強さは、地勢・風土・生態系等を下地とする精神文化の歴史の資産を活かせばより増すとも知るべきである。例えば暴れる川とともに長年生きて来たその地の人びとは、川というこころの拠り所をより良くしようとしてプラス思考を進め、特色あるまちのかたちに育み上げる偉業を時として果たす。

 環濠のまちの近江八幡、坂のまちの長崎、隠れ切支丹の漁村の崎津、清水と鯉とともに生きる津和野、武家の文化の息吹とともに生きる金沢、都市火災と闘って来た川越のまちなどに、その芯の強さの例がある。無論このような目立つ例以外の全国のあらゆる地で糸玉の芯は埋もれているとも知るべきであり、発掘・再編を待っているとも捉える方が良いと思う。景観づくりとは、このような「知る」「育む」行為を包括して、時代を超えて大きな「糸玉をつくる」意義深い営為であると考えている。

日建設計都市建築研究所所長
與謝野久
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