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色の許容範囲を示す限界色票
2005年11月2日付『建設通信新聞』より
第13回「色彩管理」

財団法人日本色彩研究所 赤木重文

 色彩計画の最終ステップは、施工監理の一環である「色彩管理」です。

 広義の「色彩管理」は「品質管理」と対応して使われ、環境やモノを作るプロセスにおいて色彩にかかわるすべてのステップについて、統計的で色彩工学的な手法によってその計画をコントロールすることを指します。しかし、現在その手法が色彩計画のすべてのステップで確立されているわけではありません。狭義では、目標とする色彩を再現するに当たって、測色学的な見地からカラーマッチング(色合わせ)の枠組みを提示する行為です。

 ここでは景観色彩計画の最終ステップとして「色彩管理」について触れますが、これは狭義の「色彩管理」に当たります。

 一連の工程を経て、さまざまな部位の最終的な色彩が決定しますが、この色彩を的確に施工者に伝達して色彩計画は一段落します。通常は色彩仕上表と呼ばれる色見本を貼付した一覧表を作成しますが、塗料系以外の仕上材は色選定の自由度が少なく、メーカーの仕上材標準色の中から選ぶことになります。「色彩管理」の必要性が高くなるのは、特注色や塗料系の仕上げで、色見本やカラーシステムの色記号で指定するケースです。目標の色に対して同じ色を作ろうとする場合、機械で測定して同じ数値になるような色を作るのは至難の技です。そこで、目標の色を基準にした許容範囲を設定します。許容幅は、対象部位また色彩設計のコンセプトによって異なります。目標色に対する試料色の感覚的な色の差を「色差」といいます。「この2色の色差は3」などの言い方を耳にされた方も多いと思います。

 「色差」はカラーシステムの色空間にプロットされた色の距離によって表しますが、感覚的な色の差が空間上の距離によって表すことのできるカラーシステムを均等色空間と呼び、現在もその改良が進められています。現在日本でよく使われている均等色空間の代表はL*a*b*(エルスター・エースター・ビースター)で色差はΔE(デルタ・イー)で表します。ちなみに色差0.6は実用的な色差設定の限界であり、色差1はかなり厳格な許容差、2.5になると並べて見た場合、ほとんどの人が容易に色の差を認めることができますが、離して見ると同じ色と判断してしまうことのある色の差です。

 このように色差の許容範囲を設定すると、許容するか否かの判定が厳密にできますが、いちいち測定しなければなりません。これを目で簡単に判定できるようにした用具が限界色票です。真中に窓を空けた台紙の回りに、許容の限界を示す色票を貼付したもので、窓にサンプル色を当てて回りの色と見比べて判定します。この限界色票は、思わぬところで活躍しています。たとえば、果物を摘み取る時期を判定するためやパンの生焼け、焼き過ぎを判定して不合格品を選別するために使われています。これは色を管理するのではなく、色で管理するという意味の色彩管理になります。

 ここまで、目標色に合わせるための考え方を紹介しました。部材を各種仕上材から選定する場合、色差の管理は製品ロットの違いによる色違いをチェックすることになるのですが、それよりももっと多大な影響を与えるのが材質感や陰影、またボリュームです。できるだけ大きな実物サンプルを現地で観察し、材質感や光が色に与える影響を確認することが、仕上部材を使用する際の色彩管理といえるでしょう。

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