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イメージマップの例(橋梁色)
2005年11月1日付『建設通信新聞』より
第12回「色彩設計案の事前評価」

財団法人日本色彩研究所 名取和幸

 色彩デザイン案の提案に重要なことは、そのプランが景観設計のコンセプトに適合しているという根拠を明確に示すことにあります。これまでに述べてきたように、設計は、色彩知覚データ、心理データ、配色調和理論、そして、現場調査によって収集・分析した景観色の特徴などを活用して進められますが、提案を最も直接的に支援してくれる資料は、今回の「設計案の事前調査結果」だといえます。とくに近年、公共性の高い建築物の場合には、事前に、多くの回答者を対象とした心理調査の実施が求められることが多くなっています。

〈決めるべき3つの要素〉
 調査を行うには、次の3要素を検討しなくてはなりません。

 1つは「調査評価者」のこと。誰に評価をしてもらうのかは、対象となる構造物を眺める人の特性を考慮し、観光客などを想定した不特定者がよいのか、地域住民だけでよいのか、年齢や性別は、人数は、などを検討して決定します。

 2つ目は「評価対象物」。何をどのようにして提示するかも重要です。色彩設計案のCG(コンピューター・グラフィックス)画像を使うことが多いのですが、立地条件を分かってもらうように、周辺の景観写真を見せたり、ビデオ映像を流すこともあります。また車中から眺めた街路景観が重視される場合は、動画を用いることもあります。

 3つ目が「評価手法と評価基準」。評価には後述のようにさまざまな手法があり、問題の性質に応じて選びます。どのような側面から評価を行わせたらよいかは、類似の先行調査や文献を参考にしたり、インタビューなどから決定します。

 〈評価手法のいろいろ〉
 景観設計案に関する心理評価法の代表的なものには、意見聴取法(インタビュー)、選択法、順位法、一対比較法、評定尺度法、SD(Semantic Differential)法などがあります。

 選択法は設計案の中から最も良いものを回答させ(複数回答もあり)、順位法は好きな順に並べさせて行います。一対比較法というのは、設計したデザイン案の中から2つずつペアにして抜き出し、その優劣を総当たり戦で行う方法で、社名ロゴタイプの最適な大きさや位置を探るというような、微妙な差異を評価するのに優れています。評定尺度法とは、たとえば、「軽快な」と「重厚な」との間を、5または7段階に区切ったものさしを用意して(評定尺度という)、景観印象に対応するところを選択させるという方法です。評価の程度を容易にとらえることができます。SD法は、景観の印象を、多くの評定尺度によって多角的に回答させる方法です。結果を統計的に解析すると、景観がどのような観点から評価されていたかという、心理評価の基準を明らかにすることができ、また、各カラーデザイン案をイメージマップの中に位置付かせることで、景観の印象を総合的に把握する方法としてよく使用されています。

〈調査の意義〉
 調査結果は、設計意図などを知らない、多数の回答者の新鮮な意見が総合されたものです。少数の、何らかの思い込みを持つ設計者や関係者の判断よりも、一般性、客観性の高い評価といえ、事前に景観の印象を予測することで、安心して色彩デザインの選定、提案を行うことができます。そして、それが色彩提案の最も直接的な根拠となるわけです。

 なお、心理評価調査は、設計案の事前評価のほか、計画の初期段階に、その景観にどのような問題、特徴があるのかという問題点、着目点を発見するためにも行われます。

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