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キーワードで示したコンセプトの事例
2005年10月25日付『建設通信新聞』より
第9回「色彩設計コンセプトの作成」

財団法人日本色彩研究所 赤木重文

 色彩設計とは、色彩計画の一つのステップを指し、色彩や形状、大きさ、素材、レイアウトなどの効果を、具体的な対象物のデザインとして検討し、その色彩デザイン案を制作する行為です。

 色彩設計コンセプトとは、色彩デザインの基本的な方向を示す指針で、色彩計画の上位コンセプトである景観設計コンセプトを、色彩で実現するための方針を定めたものです。デザイン制作は具体的であればあるほど細部にこだわり、所期の目的を忘れがちになる傾向があります。制作の節目で、景観設計コンセプトとの整合性について確認する必要がありますが、チェックリストの役割を果たすものでもあります。またその役割は色彩デザイン制作途中だけではなく、色彩設計案の評価に用いる尺度を選定したり、決定した最終設計案の確認などにも使用します。

 同じ景観を見たときの評価の変動要因は、対象との位置関係から評価者の気持ちの問題までさまざまです。色彩設計コンセプトは、その要因に沿って設定していかなければ、適用性の低いものになります。

 その条件の一つが、視点場です。対象物と周辺景観の見え方は視距離によって異なり、大きくは遠景、中景、近景に分類されますが、視距離のタイプごとに対象物の見せ方をコンセプトとして設定することによって提示します。

 遠景では、対象物を含めた全体景観の印象が、また全体景観における対象物の印象が把握できます。周辺景観の地形や色彩的特徴に対して、対象物をどのような関係に誘導していくかをコンセプトとして明確にします。

 図は、比較的広い範囲にわたる工場の色彩設計コンセプトをキーワードによって示したものですが、地形や周辺環境の構成物をイメージに活用しようとした事例です。また、主要な部位に施す色の方向性を色票によって示す場合もあります。設計対象物の背景景観に対する関係について、評価調査を実施すると、周辺景観に関心があるか、設計対象物に関心があるかで評価は分かれるようです。緑の多い自然景観を背景に持つ建築物が、周辺に埋没するような暗い色の場合、自然景観に興味を持つ人はその建築物によい評価を与えますが、設計家は明るく視認性に勝る色と比較して低い評価を与える傾向があります。周辺景観との関係をコンセプトとして設定する場合は、その景観を最も多く眺望すると思われる人(たとえば地域住民、観光者、就労者など)を対象にアンケートを取って、そのあり方を絞り込むことも一つの方法ではないでしょうか。

 設計対象物の全体が確認できるとともに、対象物を構成する各部位の色彩がはっきりと確認できる中景になると、対象物を構成する各部位の色彩が全体景観の印象に影響を及ぼしてくると同時に、各部位の配色が設計対象物の表情として感じられるようになってきます。これらの部位は大きさや形状そして景観的役割もそれぞれ異なることから、部位ごとに色彩選定の考え方にも違いが出てきますし、結果的には選定候補色の範囲も異なってきます。設計対象部位による色彩範囲を色彩設計コンセプトとして設定する場合もあります。

 近景になると、テクスチャーも感じるようになり、より触感的な印象が強くなります。配色の効果も少しの色の変化で異なってくるケースも出てくるため、色彩設計コンセプトの次のステップ「色彩設計案の作成」で検討することになります。

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