トップページへ
Top > 私の景観論 > 景観と色彩 > 第8回「測色データの分析とその活用」
景観測色データのまとめの例
2005年10月20日付『建設通信新聞』より
第8回「測色データの分析とその活用」

財団法人日本色彩研究所 名取和幸

 今回は、集めた景観測色データを加工・分析し、色彩計画に役立てるというステップのお話です。

〈測色データの分析〉
 (1)色名への翻訳:レンガの建物の色を計ったところ、マンセル値が5YR 5.5/6であったとします。これは色相(色合い)がオレンジ系、明度が5.5、彩度が6の色であることを示していますが、このままではどんな色であるかがわからないと思います。そこで色名へ翻訳します。求める色名は、桜色、オリーブのように具体物に由来する類のものではなく、誰もが知っている基本の色名に色の調子を表す言葉を組み合わせて作られる「系統色名」というものです(例:明るい青、うすい緑など)。詳細は省略いたしますが、系統色名は、カラーコードアトラスという変換シートを使ってマンセル値から求めることができ、先ほどの例ではライトブラウンとなります。これで色がイメージできるはずです。

 (2)トーン(色調)分類を行う:同じグリーン系にも、薄い、濃い、明るい、暗い、鮮やか、鈍いなど、さまざまな調子の色があります。そのような色の調子のことをトーン(色調)と言い、普通17種類に分類されます。トーンの違いは景観イメージへの影響も大きく、把握することが重要です。これも先述のアトラスによって行います。

 (3)色の分布の傾向を読む:景観色の分布図を作成し、その傾向をみます。たとえば、横軸に色相、縦軸に明度をとったマップに出現色をプロットしたり、横軸が彩度で縦が明度のマップなどがよく使われます。ちょうど、地図上に珍しい動物の生息地をプロットするようなものです。その景観にどんな色が多く、どのような色が出現しないかという色の分布の粗密や、自然物と人工物による色の分布傾向、自然物の色の季節変化などをとらえます。

 また、図に示すように、大分類(色系統による大きな分類)とトーン分類による分類表の中に出現頻度を記入した表を作ると、景観色の特徴を、色の系統とトーンの種類から明らかにすることができ、非常に有効です。

〈測色データの活用〉
 (1)地域らしさのある美しい色の発見:島根県の景観ガイドラインを策定した際、季節ごとに全市町村をまわり、現地景観調査を行いました。地域ごとの特徴的な景観色を見つけるためです。伝統的な美しい石州赤瓦の町並みについては、そのカラーバリエーションを分析しました。その後、データも活用し、赤瓦の町並み保全の活動が進められています。また、発電所の色彩検討の時には、近隣の緑みを帯びた岩の色を、設計に活用しようとしたこともあります。

 (2)設計物に組み合わされる色の把握:景観構造物の色彩設計は、単体としての評価だけでなく、周辺の自然や人工構造物との色の関係に注目して進められます。色彩分析の最も大事な役割は、建物に組み合わせる相手の色の特徴をとらえることにあります。自然豊かな場所に建てられた公共性の高い建築物の場合には、自然を大事にし、一般に自然景観との融和的な調和がコンセプトになります。測色データを分析し、自然の色の季節変動をとらえ、ベースカラーにはさまざまな季節において自然と融和的になる色が選定されるのです。他にも、住宅メーカによる開発地区において、住宅外壁色の推奨色範囲を設定した際にも周辺景観色データは活用されました。

 周辺景観色の特徴をきちんと把握しましょう。そうしないと、色彩設計を進めることはできません。

〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-13-7 名古路ビル本館
(c) 2007 NPO法人 美し国づくり協会
TEL.03-3259-8712/e-mail:info@umashi-kuni.com