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2005年10月19日付『建設通信新聞』より
第7回「実態調査」

財団法人日本色彩研究所 赤木重文

 色彩は背景色、面積、視距離、形状、レイアウトなどによって表情が変わりますから、設計対象の色彩検討に当たっては、これらの条件を事前に捉えておくことが必要です。建設予定地の現地調査によって色彩設計に必要な多くのデータが収集できます。

 私たちが景観色彩計画の一環として行っている現地調査は、「視点場の設定」「測色調査」「印象の記録」「写真撮影」などがおもな作業となります。どの作業もこの後の色彩設計の重要なデータとなりますが、とくに「測色調査」の結果は設計対象物の色彩選定に大きく影響してきます。たとえば、多くの歴史的建造物が並ぶ地区では、歴史的建造物に使われている色の範囲が、色彩選定の指標になります。また自然景観の色も見逃すことができません。土や砂や岩の色はその地域のベースカラーであり、植物の色、また空や海・湖を介して現れる光の色が、その地域を代表する魅力的な景観の構成要素となっている場合もよく見受けられます。これらの色を測定という手段によって収集するのが「測色調査」です。収集した色は、そのまま設計対象物の選定色とする場合もあれば、既存景観色と調和する色の範囲を求めるために活用するといった間接的な使用法もあります。

 現地景観色調査の概要と要点を紹介します。

『視点場の設定』:最初に調査地点を検討しますが、景観の印象は視点から対象物までの距離によって異なるため、「遠景」「中景」「近景」の各代表地点を選定します。

『測色調査』:測色調査には視感測色と機械測色があります。視感測色とは、基準になる色票のスケールと測色部位を見比べて、その色彩値を判断する方法です。近くにあるものを測定するときは色票を対象部位に当てて比色し(接触法)、離れた場所にある景観部位を測るときは色票をかざして比色します(非接触法)。接触法はその物の色を、非接触法は景観の色を測定しています。当然、同じ測定対象物でも接触法と非接触法では異なった値が出てきますが、この測定値の差が日照条件や大気の湿り具合といった、その地域特有の風土的特徴を表している場合もあります。

 機械測色にも接触タイプと非接触タイプがあります。非接触タイプは光の明るさが少しでも変わると数値も当然変わっていきますので、常にキャリブレーションの必要があり、光源が内蔵された接触タイプはおうとつのある測定面を苦手としています。限られた時間内に多くの測定を行う場合は、訓練さえ積んでおけば視感測色のほうが機動力を発揮します。何よりのメリットは調査員が景観の色をじっくり観察することで、この後の色彩設計のヒントを抽出することができる点にあります。

『印象の記録』:調査員全員が調査景観に対して受けた印象のすべてを記録しておきます。調査結果を分析するとき、周辺景観色の収集データと対応付けて整理することにより、色彩設計コンセプトや設計案作成の際の検討材料として活用できます。

『写真撮影』:写真は調査の記録、調査データのプレゼンテーション、また設計案のシミュレーション画像作成の原画などに使います。シミュレーション画像作成では、現地の色を忠実に再現する必要がありますが、測色データはこのカラーマッチングのためにも使われます。シミュレーション画像として使われる可能性の高いアングルについては、景観色の要所を測定しておく必要があります。

色彩輝度計を使った測定
色票スケールを使った視感測色
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