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第4回「色彩知覚効果」

財団法人日本色彩研究所 名取和幸

 小声で言いますが、多くの色票を用意すれば、誰にでも構造物の色を選ぶことはできます。けれども、その色使いが本当にめざす外観イメージに適合しているのか、また誰にとっても見つけやすく読みやすい表示になっているのかなどは、色彩計画の専門家でなければ説明することはできません(実のところ、それをきちんと説明できるかどうかが大事なのですが……)。

 専門家による色彩の提案は、さまざまな色彩データや色彩理論を援用して行われます。今回はそうした色彩データのうち、色の組み合わせや色の大きさなどにより、色がどのように見えるかという「色の知覚効果」のことをお話ししましょう。

〈サイン表示にとくに重要な知覚効果〉
 ある部分を色によって目立たせたい場合には、色の「誘目性」データを参照します。目を引き込む力の強い色の条件は、純色であること、そして、赤、オレンジ、黄色などの暖色系であることです。そこで、鮮やかな赤に決めたとします。しかし、赤い物がいつでも目立つわけではありません。日没後少し経つと、昼間は明るく色鮮やかに見えていた赤い色が、暗く、くすんだグレイに様変わりします。暗くなると赤系の色はその力を失い、代わりにブルーが明るく見えるようになるのです。これはプルキンエ現象と呼ばれる現象で、建築の色を設計する時には光の状態を意識し、場合によれば照明計画と併せた検討が求められます。

 また、目立つはずの赤い企業マークも、ブラウンのレンガを背景にすると遠くから認めることはできません。背景と対象の明るさの差に目を向け、明るさの違いが大きな色を組み合わせるようにします。明るさでコントラストをつけるというのは分かりやすくするための大原則の一つです、そうしておけば、高齢者の方も、色覚異常の特性を持つ人であっても、そして誰にとっても認めやすく読みやすい表示を作ることができます。

 図の色の見え方も周囲の色から影響を受けます。明るい背景だと実際よりも図は暗く、暗い背景では明るく見えますし、背景色との関係で色合いも変化して見えますので、こうした対比現象にも注意を払うことが必要です。

〈外装色の選定に重要な知覚効果〉
 小さな色見本により建物の色を決め、いざできあがってみると、思い描いていた色よりも、明るく、鮮やかで、派手に見えることがしばしばあります。色の面積効果と呼ばれる現象です。内装のカーペット、壁クロス、カーテンなどでも同じことが起こります。図には、カラーサンプルの色が実際の建物になった時に、どのような色に見えるようになるかを示しています。カラーサンプルの色(図の●)が建物になると、矢印の方向に1目盛分ずれた色に見えるようになるのです。明るく淡い色は主に明度が上がって見え、ピンク系やライトブラウンなどの、明るくて、色みも多く含まれる色は、明るくかつ鮮やかに、またブラウンのレンガなどは、明るさはあまり変化せず鮮やかさが増すという傾向があります。面積効果によるトラブルを防ぐためには、できるだけ大きなサンプルで選ぶことが大事で、小さいサンプルしかない場合は、選定色はサンプルでよいと感じた色よりも、明度と彩度をやや落とした控えめな色にするようにします。また、遠くになると建物の色の彩度は落ちていきます。距離による色の変化にも注意しなければなりません。

 というところで紙面が尽きました。最後に声を大にして言いましょう。知覚データをあなどるなかれと。

面積効果変換カラーアトラス(日本建築学会「建築の色彩設計法」2005より改変)
2005年10月12日付『建設通信新聞』より
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