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私の景観論

 静岡県建築士会における良好な景観形成への取り組みは、1989年の「歴史的建築物・歴史的町並みの存在確認調査」に始まる。17支部の会員約2500人がローラー作戦を展開、以来、同会の景観づくり活動は地域の建築家と住民が一体となり進めている。06年2月に県から景観整備機構の指定を受ける以前の02年には、「東海道まちづくり・21世紀の提案」で「第3回中部の未来創造大賞」も受賞。指定を受けた半年後には、三島市からも景観整備機構の指定を受けるなど、活動への評価と期待は高い。大澤稔会長に同会の取り組みを聞いた。

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 89年から取り組み始めた歴史的建築物歴史的町並み存在確認調査は、その後、旧東海道22宿基礎調査と提案、海の東海道の基礎調査と提案へ広がりをみせ、97年の静岡地域貢献活動センター設立、現在へと続く。「行政と住民が一緒になって、まちづくりを考え、(住民でもある)建築士がコーディネーターとなって提案する」仕組みづくりができたことになる。

 県から景観整備機構としての指定を受けてから、同会の機関誌『建築静岡』の中に「景観整備機構瓦版」のページを設けた。「景観づくりの活動をしている人に書いてもらう」ことで今、機構が何を考え、何をしようとしているのかをリアルタイムで伝え、景観・まちづくりの共通の認識を深めてもらうのがねらいだ。

■建築士が参加すれば地域の人が認識する
 景観づくりには「人をどう育てるか、また発掘するか」が課題だと指摘する。「小さな設計事務所でも、景観づくりを経験している人がいる。こうした人材を掘り起こしていけば、景観づくりに参加したい人も出てくる」と大澤会長はみる。瓦版は、そのための道具だと言える。「地域住民が、その地区をいい景観にしたいと望む。その地域にいる建築士が、景観づくりに参加すれば、地域の人に認識してもらえる」。それが将来的には、建築士にとっても仕事につながる。景観づくりには、その地域の歴史と生活を知っていることが不可欠だからこそ、支部を中心とした活動になるわけだ。

■新居関所、大井川地域で「育て」事業
 その具体的な例が、国の指定特別史跡である新居関所(新居町)周辺のまちづくりや、大井川中流域(川根地域)の「景観育て」事業だ。

 このうち、新居関所周辺まちづくりは、すでに「まちづくりの会」が発足し、関所周辺の5町(栄町、泉町、中町、俵町、船町)への、かわらばんの発行や勉強会、出前委員会などが行われ、地域住民が自立した「まちづくりの会」に育っている。

 一方、大井川中流域「景観育て」事業は、地域住民と建築士などの協働作業を中心とした作業を進めている。ここでは集落構造を、遠景空間・集落景観・場所性という「空間の軸」、生活と生業の歴史的変遷や生活・生業と景観との関係性という「時間の軸」、地域住民の組織という「人間の軸」を建築士などによる外部評価と、地域住民による内部評価から差異・共通性を見つけ出し、それを統合評価して、両者が共有できる価値観を持つ景観を設定、地域住民の中から景観育ての担い手を育成し、建築士などの専門家とともに景観を育てていこうという試みだ。

 その景観育成事業には「『地縁(じえん)』『知縁』『志縁』という3つの縁の多重性が存在し、重なり合う部分が必要だ」という。この事業は、08年3月まで続けられる。志太支部の会員と地元住民が一緒になって、現地調査や住民意識調査が進められている。調査には、士会規定による交通費と日当プラスアルファが支払われる。

 こうした活動と並行して、景観整備機構に指定されてからは、同会では文化庁の市民を対象とした「文化財建造物活用推進事業・デモ研修」の実施や、県が主催し市町の職員を対象とした「景観実務講座」への協力など、多彩な啓蒙活動を展開している。また、地域貢献活動として支援したグループが、伊東市松川地区では国指定有形文化財である旅館「いな葉」の保存運動も展開、市側も保存を前提に必要となる耐震設計、耐震工事の費用を負担することを明らかにしている。さらに東海道見付宿では、大手学習塾の建築計画に対し、外観が地域の景観にそぐわないと変更を求め、実現させた例もある。景観づくりに関する思いは、具体的運動の成果として結実しつつある。

2007年7月5日付『建設通信新聞』より

景観づくりは
人の育成、発掘から
庭も建物も自然の一部になっている集落
静岡県建築士会長
大澤 稔
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