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私の景観論

 大雪山連峰を背景に田園の広がる美しい景観は、まちの財産として未来永劫引き継いでいくべきものとし、上川郡東川ひがしかわ町は1985年に“写真の町”を宣言。2002年には環境保全・景観形成・開発規制をセットにした「美しい東川の風景を守り育てる条例」を制定し、住民らと協力しながらまちづくりを進め、また都市計画区域外にもかかわらず、独自に景観計画を策定し文化価値の高いまちづくりに取り組んでいる。新しいコミュニティーのあり方や景観保全への思いを松岡市郎町長に聞いた。

◇     ◇

 北海道のほぼ中央に位置し、旭川市から北へ約15km、大雪山連峰の最高峰・旭岳(2290m)を抱え大雪山国立公園内にある同町は、1895年の開拓開始以来、歴史的風景を残しながら現在の暮らしに合ったまちづくりを模索している。

■写真文化で自然守り育てる気持ちを形に
 その特徴的な取り組みの一つに“写真甲子園”がある。写真文化でまちづくりや人づくりを行っていくというほかに例のない試みだが、松岡町長は「美しい自然風景を守り育て、写真映りのよい施設づくりを行っていこうとの思いがかたちになったもの」と話す。

 前町長の発案で1994年から開催され、今年で14回目となる写真甲子園は、当初は160校程度の参加だったが年々関心を呼び、現在では約220校が参加し、毎年7月下旬には多くの高校生や関係者が訪れ、まちの一大イベントとして定着した。「周辺町村との連携も含め、カメラ業界、マスコミなどと一体化を図った展開が好結果につながった」と松岡町長は分析し「他の地域では取り組んでいない要素を入れたことで新しい個性・文化につくり上げることができた。知名度も高まり今後も大きな可能性を感じる」と話す。

 また同町は都市計画区域外にもかかわらず、独自の景観計画が策定されている。学識者等が参画し検討を進めたものだが、基本は町職員の「まちを美しく守り育てたい」との思いが具体化したものだ。

 そこには、建物の外観や素材の不統一など景観に対する配慮が不足しがちだったものを自然環境や風景に親しみを深め再認識し、その保全に努めようという意識がある。

■計画に沿ったまちづくり継続に意義
 子どもからお年寄りまで全ての町民が一体となった良好なコミュニティーのもとで、大雪山の山並みを背景に広がる田園風景を次世代にとの思いが根底に流れ、松岡町長は「計画に沿ったまちづくりを継続していくことが意義のあるものとなる。今後は、遊び心も取り入れて街灯にもまちをアピールできるものをアクセントとして配置していきたい」と行政が率先したかたちでのまちづくりを目指している。

 新規産業も含め雇用情勢は厳しい環境だが「近年のまちづくりは、個性をどのように出していくかが問われている。それには行政と住民との連携は不可欠だが、その輪を広げていくことによって、理解のある方々は定住し、企業立地にもつながる」と継続したまちづくりに期待を寄せ、今では道外からまちの魅力に共感し毎年3−4世帯が移住し人口も若干ではあるが増加している。

 東川町は上水道の整備が完全ではないが、大雪山系に源を発する地下水がまちの暮らしを支え、現在では多くの観光客に「大雪旭岳源水」として好評だ。一日約6600tのミネラル水が湧き出ており、おいしい水を求めるタンク族の名所となっている。また、すべての家庭で大雪山に源を発する伏流水を利用している。松岡町長は「景観を重視していくことは未来に大きな財産を残す。『不易流行 飲水思源』の思いを大切に行政執行に取り組み、水環境の保全・文化価値の高いまちづくりを目指していく」と今後を見据えている。

 「景観は自然と人々の営みが創り出す複合的なものであり『人と自然がおりなす輝きの大地ひがしかわ』の基本理念のもとに、まち全体を国立公園なみに美しいものにしたい」と、より東川町らしい環境や景観を楽しみながら暮らす町民の姿を松岡町長は描いている。

2007年6月7日付『建設通信新聞』より

景観重視の心は
未来に大きな財産残す
地域のシンボルとなっている旭岳。日本で一番長い間雪を見ることのできる場所で、6月になっても残雪を見ることができる
東川町長 松岡市郎
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