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私の景観論

 1993年に法隆寺地域の仏教建造物が世界遺産となっている奈良県斑鳩町。法隆寺や法起寺などの社寺、藤ノ木古墳など多くの文化財が存在するが、一方で大阪や京都などの都心に近い「都市近郊のまち」として、世帯数が増加し、ベッドタウン化が進んでいる。歴史と文化の守り手となる小城利重斑鳩町長に景観行政の方向性などを聞いた。

◇     ◇

 奈良盆地の西北部から矢田丘陵の南端にある斑鳩町は、町制60周年を迎えたばかり。ことしは法隆寺建立から1400年でもあり、「先人がずっと守ってきたものを後世に残していかねばならない」という使命を強く感じている町長は、「豊かな自然と歴史は『斑鳩の里』独自のもので、これらを保全・整備しながらその特性を生かして景観形成を意識した個性あるまちづくりを図っていく必要がある」という。

■読み方学ぶことで景観守る意識生む
 1947年2月に龍田町、法隆寺村、富郷村が合併して誕生しており、「聖徳太子が造営した斑鳩宮にちなみ、新しい町に斑鳩と名付けたのは素晴らしいこと」と評価する。「知らなければ『いかるが』とは読めない。しかし、読み方と歴史を教えることで、みんながその景観を守ろうという意識を持ってくれるようになる」と述べ、教育の重要性を指摘する。2月12日には、地域社会の発展と文化の向上を助け合っていくため、奈良大学、県立斑鳩・法隆寺国際高校と官学連携協定の調印式を行っている。

 具体的な景観保全事業としては、いずれも塔を持つ法隆寺、法起寺、法輪寺周辺の電線類地中化を進めているほか、歴史的なまちなみが残る西里を経由し、法隆寺と藤ノ木古墳を結ぶ生活道路で景観整備を行っている。「自然石を使った道路とし、沿線に公園も配置して公園周囲には土塀も復元した」という。

 間もなく完成するJR法隆寺駅舎も、生活と観光の拠点として、玄関口にふさわしい風格ある建物となっている。また、3塔の周囲に広がる田園風景も景観のポイントと認識し、法起寺周辺の岡本で休耕田を活用したコスモス栽培を行い、秋の名所として定着しつつある。

■学生で賑わう法隆寺 リピーター確保へ力
 現在、「年間の観光客は70万人程度」だが、こうした文化財の周辺整備による観光収入の増加に期待がかかる。「法隆寺は、修学旅行などで学生時代に訪れる人は多いが、その後もリピーターになってもらえるように努力しなければならない」と課題を挙げる。

 36歳で初当選し、すでに6期目となり斑鳩町を知りつくした町長が選ぶ斑鳩三景は、「空間的にも色彩的にも一体化した龍田公園と三室山」「お寺への期待感を高める法隆寺門前の松並木」「心安らぐ里山と田園の風景」とのことだ。

 景観行政では、歴史的風土保存地区や風致地区などの指定があり、その地区の自然景観と歴史的景観の保全に努めており、市内から五重の塔が一望できるように、建築物の高さを15mや10mに規制している。

 さらに、公共側が景観形成施策の意思を表明することを目的として、93年には斑鳩町景観形成指針を制定し、公共施設全般を景観形成の手本とすることで、高い意識を持ち個性あるまちづくりを促進するように努めている。町の顔となる庁舎は指針制定前の86年に完成した建物だが、高さを抑え周辺環境に調和したものとなっている。

 こうした景観誘導とともに、景観法に基づく条例化についても「有効性や実現性を検討していく必要がある」と認識している。ただ、景観条例の策定にはまだ着手しておらず、「まず住民らでまちづくりに対する機運を高めていきたい」という段階だ。

 奈良県は、2006年9月に新市町村合併支援プランを策定しており、生駒市と大和郡山市を除く9地域で合併の検討が進んでいる。斑鳩町もその対象に入っているが、合併してしまうと、景観を保全できるか懸念される。「自分達の地域は自分達で守るべき。後になって合併しなければよかったと思うかも知れないから」と慎重だ。

2007年3月15日付『建設通信新聞』より

独自の自然と歴史
『斑鳩の里』後世に残す
紅葉で有名な龍田川だが、春には満開の桜が景観をつくる。川沿いの県立龍田川公園には桜で有名な三室山がある
斑鳩町長 小城利重
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