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私の景観論

 海あり山あり温泉あり、全国有数の観光都市・熱海市は、9月の市長選で当選した齊藤栄市長が市政改革に着手し、市民参加の景観行政へ舵を切り始めた。同市は、景観法に基づき景観計画の策定に着手しているが、市長は「景観計画のグランドデザイン」が必要だとしている。「ゆっくり急いで手を打つ」という同市長に聞いた。

◇     ◇

 「いま景観計画をつくり景観地区の指定を検討しているところだが、わたしはそのためには、もっと長期的な、全体方向が分かる景観計画のグランドデザインが必要だと思っている。景観法に対応し景観計画をつくるという型どおりの行政手順だけでなく、計画がグランドデザインの中でどのような位置取りなのかが、市民一人ひとりに理解できるようにしたい。そこで初めて市民からの景観への、本音の意見が出るはず」と熱く語る。

 熱海市の景観行政は早い。1992年に都市景観条例を策定し、2005年にはまちづくり条例制定、都市景観条例により東海岸町地区を重要景観形成地区に指定した。景観行政団体には05年5月2日になっている。そして現在は、建物高さ制限、用途制限、景観地区指定を内容とする景観計画の素案を公開している。

■熱海改革へ戦略室 観光との問題考える
 だが、市長には熱海のまちづくりが、豊富な観光資源を生かしきれず、調和を欠いているように見える。「選挙公約で観光戦略室をつくることを掲げた。観光に関連した部署は十数カ所あるが、それぞれが分散した仕事を行っている。観光への施策もそれぞれバラバラになっており、もっと戦略的で結束力のある施策を展開しなければ駄目だと考えている。市長直轄の戦略室をつくり、ここには役所の職員、いろんな業種の方々、市民、学識者に集まってもらい、観光戦略を練っていただく。その中に景観の問題が必ず絡んでくる。景観と観光は表裏一体の関係にある。例えば熱海駅を降りると、そこは雑然とした、目立つことだけ念頭にした広告看板が乱立している。まちを歩いても観光スポットに連なりがなく、歩く楽しみを創り出す工夫も足りない。観光を戦略的に考えると、こうした景観面での問題も浮き彫りになってくる」と指摘する。

 景観という新しいテーマは、既得行政の壁にぶつかりやすいことを見据えて、観光戦略室というプロジェクトチームにより風穴を開けようというわけだ。市長は「心の壁がある」と柔らかく表現する。

 『まちづくりから日本を変える』(海南書房)という齊藤市長の著書がある。そこに熱海改革への思いがこう綴られている。「熱海市はやるべきことがたくさんあると感じる。そして、やるべきことをやっていないのではないか」。いま市長になってやるべき先頭に立った。「やるべきことは山とあり、課題だらけだが、それを担うために市民に選ばれた」と意気軒昂だ。

 市長の選ぶ3つのベスト景観の第1は、自分のブログの表紙写真に使っている駅前春日町の高台から俯瞰した海岸線の街並み。これぞ熱海フォーカス、という市長自ら撮影した作品である。「第2は熱海のランドマークの一つであるMOA美術館からの景観。山と海をいだく熱海のスケールが出ている」と。第3にあげたのは市指定有形文化財の起雲閣。3大別荘を市が買い取り、観光施設として公開している大正ロマンあふれる名邸だが「庭がすばらしく、部屋一つひとつのディテールが惹きつける」と絶賛する。

■課題は新庁舎コンペ 「もっと勉強機会を」
 現在、行政課題として浮上しているのが新庁舎の建設。初登庁のその日が設計コンペの1次審査会で7者案を3者に絞る当日だったが、ストップをかけた。「わたしに勉強させてほしい、それからもっと広く市民の意見を聞く必要があると考えた」と説明する。10月31日に1次審査会が開かれ、3者が選定されたが、11月を「意見を聞く月間」として、コンペ作品をもとに、市内7地区で新庁舎への市民の意見を聞く。

 参加型市政はすでに始まっている。

2006年11月13日付『建設通信新聞』より

市民参加へ
グランドデザイン
熱海市長 齊藤 栄
市長自ら撮影した熱海の海岸線。長い海岸線を持つ熱海は東に向かって開けた、明るく風光明美な町
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