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私の景観論

 江戸川を隔てて東京都に隣接する千葉県市川市は、首都圏有数の住宅都市としての一面を持ちながら、姥山、曽谷、堀之内などの馬蹄形貝塚を始め、中山法華経寺、下総の国分寺など、古くは縄文時代からの多彩な歴史や伝統が各所で感じられる文化都市だ。まちづくりを含めて千葉光行市長が講じるすべての施策の根底には、WHO(世界保健機関)が提唱する「健康都市」の推進がある。都市に住む人々の健康を確保し、生き生きと暮らせる街をつくり上げるためには、保健医療分野の取り組みだけでなく、社会のインフラ整備や心を潤す景観形成など、あらゆる分野が一体となった活動が重要となる。千葉市長に景観やまちづくりに関する取り組み、考えなどを聞いた。

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 「各地区ごとにもつ歴史・文化を生かしたまちづくりを基本としながらも、そこに住みやすさをいかに加えるかがポイントになる」と方針を語る。「住みやすさを支える要素は、緑や水を始めとする日常生活を取り巻くすべての環境」と捉え、市民の精神的・身体的・社会的健康水準の向上を重要視するその姿勢からもWHO憲章の精神がうかがえる。

 少子高齢化に伴う人口減少時代にありながら、市川市の人口は増え続けている。「人口密度が高い分、さまざまな環境整備が必要になる」ことから、ユニークな条例や助成制度を設けたり、各地区で市民参加型のワークショップを開催するなど取り組みも多彩だ。

■防災と緑の確保二面性を充実
 そのひとつとして「防災と緑の確保というふたつの面を充実させる」ことを目的に、生垣設置助成事業を展開している。市街地の一部には、狭い道に面して古いブロック塀が設置されている場所が残る。地震が起きた際には倒壊による危険のほか、高齢者や障害者の避難の妨げにもなる。同事業により、新規に生垣を設ける場合や既存ブロック塀を取り壊して生垣にする場合の費用を助成することで、生垣の普及を促す一石二鳥の効果を上げている。

 ワークショップの開催など市民協働のまちづくりも積極的に展開している。その一部として、「中山地区では、法華経寺参道部分の下水道整備や電線類地中化に合わせて街並みをどうしていくか、旧行徳市街地地区では昔ながらのお寺のある風景をいかに保全・再生していくかなどについて、地元自治会などと意見を交わしている」

 このほか、市民リーダーや支援者を育成する「景観まちづくり学校」を開くなど、ソフト面の充実も図っている。

■豊富な北部緑地はみどり会の成果
 市川市では民間団体の活動も盛んだ。「高度経済成長を迎え開発が急速に進んだ1972年、市内の山林所有者が都市緑地を保全する全国初の組織『市川みどり会』を設立した。今でも市北部に残る豊富な緑は、みどり会の活動の成果だ」と評価する。市は、みどり会の趣旨に賛同し、運営費などの一部を補助している。

 景観法に基づく取り組みも積極的で、法令上自動的に位置づけられる県、政令市、中核市を除いて県内で初めて景観行政団体となった。全国227の同団体のうち、景観計画を策定しているのは市川市など16団体のみ(7月1日現在)であり、取り組みは全国でも先進的だ。

 ことし7月には、景観条例と景観計画を全面施行するなど体制も整えた。景観計画は、市内全域を適用対象としており、主に色彩について変更命令基準などを設けている。建物の高さなどに対しては、定性的な規制のみで明確な数値は設定していないが、地元からの要望があれば検討し、特定区域として計画に盛り込むなど内容の更なる充実を図っていく。

 景観三景には、市民が選んだ「いちかわ景観100選」で第1位になった「江戸川」と、日蓮宗大本山の寺院で立正安国論や観心本尊抄、五重塔など数々の国宝や重要文化財がある「中山法華経寺」、東京湾に残された貴重な干潟「三番瀬」を挙げる。

 「環境・歴史・文化という資源を守りながら、落ち着きや優しさ、潤いに満ちたまちにしていきたい」と今後の景観形成に意欲を示す。「市民が主役のまちづくり」というポリシーのもと、真に健康的なまちを創造する。

2006年9月25日付『建設通信新聞』より

日常生活すべての環境が
住みやすさ支える
市川市長 千葉光行
法華経寺の祖師堂(写真手前)と五重塔。ともに国の重要文化財に指定されている
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