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私の景観論

 昭和63年、全国で4番目に景観条例を制定した岡山県は、景観に対する民意が高く、行政の姿勢も先進的だ。「景観は内面の気持ちから育まれる文化振興そのもの」という景観ポリシーを掲げる石井正弘知事は、「市町村に権限を移譲し、市町村が景観行政団体となってもらい、地域ごとに個性ある景観行政を展開するよう働きかける」とする。石井県政の景観への取り組みを聞いた。

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 旧建設省時代、都市計画も担当していただけに石井知事のまちづくり、景観への取り組みは明快だ。「快適生活圏岡山をめざす」という発想から「新世紀おかやま夢づくりプラン」の五カ年計画をスタートさせ、今年度がこの最終年度に当たり、仕上げの時だ。

■進む自主公共管理民意の高さを評価
 「快適生活指標を掲げ協働を促すようにしたが、県民やNPOの参加を得たことが大きい。事業を養子縁組のように取り持つアダプト事業も定着した。県民から財政事情が厳しいなら自分達の公共管理は自分でやりますと進んで参加していただいた」と民意の高さを指摘する。この下地があるから景観行政も生きたものになる。

 「景観は、そこに住んで働いている住民の内面の気持ち、心と不可分であり、文化そのものだと思う。平成22年には3万人規模の国民文化祭を招致しようというのも文化へのかかわりを重視しているから。文化振興の中から景観をとらえ直すことで、歴史的景観、自然保全、都市景観も深く生活に根ざしたものになる」

 開発との関係では、「開発と景観の調和が必要であり、またそれが可能だと思う。そのためには条例や要綱でどこまでがいいか、どこまではダメで遠慮していただきたい、ということをきちんと提示することが大事だ」と指摘する。

 「例えば後楽園では、借景という庭づくりの手法を取り入れている。外部の風景も景観の重要な要素になるから、周辺の建物は位置によって規制することになる。30階建ての高層マンションを23階にしていただくようなこともした。調和を理解していただくことが大事だと思う。一方で、例えば瀬戸大橋は瀬戸内海と見事に調和した公共建造物の見本であり、公共施設が景観、環境を率先するということも大事だ」という。すでに1989年、県は公共事業景観形成基準を策定している。

 今後の景観行政については、市町村への働きかけをあげる。県下27市町村の中で、景観行政団体はまだ4団体だが、「市町村の役割は非常に重要」として、広く普及させる考えだ。

■市町村が主体となり個性あるまちづくり
 「県が一律に景観計画をつくると、どうしても抽象的なものになる。地方分権の時代の中で、景観も市町村ごとにポリシーを持って、市町村が主体となって個性あるまちづくりや景観行政をすべきだ。岡山県は東西南北、歴史・文化、山・海、工業・都市それぞれ固有の多様な景観がある。それをさらに形成するうえで金太郎アメみたいにどこでも似たようなまちづくりではいけない。県の権限を移譲し、一体感を持って市町村それぞれの景観行政を進めてもらいたい」と地域主導を強調する。

 「晴れの国」岡山は観光名所も多い。その中で知事の景観三景は「一番はなんと言っても後楽園。都市の中にこれだけ広大な林泉回遊の名庭はない。庭から岡山城を望む景観がいい」と手放し。

 二番目は瀬戸内海の眺望だ。「これも鷲羽山から望む多島美と瀬戸大橋のコントラスト。美しさだけでなく島での生活の営みが感じられるのがいい」と嬉しそうに語る。

 三番目は「困った。妥当なら吉備の国なのだが、自然景観ばかりになる。文化という観点から、最近の取り組み、旧日本銀行岡山支店本館にしよう」とした。大正時代の1922年に岡山城二の丸跡に建設された日銀岡山支店を、県が買い取ってリニューアルした。当時の匠の技と様式をそのままに、内部を耐震構造にし、「文化発信の拠点にした。ルネッサンスをもじりルネスホールと名づけ、NPOや市民団体に運営いただだいている」という。

2006年8月28日付『建設通信新聞』より

景観は内面から育まれる
文化そのもの
岡山県知事 石井正弘
日本三名園の一つ『岡山後楽園』。江戸時代を代表する回遊式庭園で、庭石や樹木のほどんどが郷土のものという、風土に調和した景観を形成している
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