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私の景観論

 上高地、北アルプス、乗鞍高原、美ヶ原高原、野麦峠という有数の景勝地は現在、城下町として知られる長野県松本市の市域に編入されている。同市が2005年4月に梓川村、安曇村、奈川村、四賀村の4村と合併したことによる。山地・高原だけでなく中信地区の原風景といえる多くの農村地帯も市域に加わった。菅谷昭市長は、このような景観が「長年外科医を務めた医療者の立場からみても重要だ」とし、身近に自然があることの意義を説く。

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 これまでわが国は「経済やモノ優先の時代だった」と振り返る。ところが、自ら海外の医療支援活動に参加した際に「素晴らしい自然の中で人が暮らすのを見て、日本は何をやってきたんだろうかと感じた」という。これからは「精神性や文化が求められる時代を迎えた」とし、その一つが景観だと考える。他に替えがたい田園風景も「都市開発されれば金太郎飴的になってしまう」ことから、大事に守る。

 そして、住みたくなる街の要素としても、景観に注目している。人口は黙っていると“自然減”となるため、退職した団塊世代の定住者を呼び込むなど、“社会増”で補う政策が必要になっている。「人間はゆとりを持つと、空の色、雲の形、風の音、鳥のさえずりや木々、花々に関心が向く。都会の喧噪から離れ、自分の五感を大切にした毎日を過ごし、季節を感じて生きられる場がここにある」という。“健康寿命”を伸ばす施策にも取り組みながら、高齢者が元気に過ごせる場として磨きをかける。

 公約である「10のまちづくり」の中には、「昔懐かしい童謡唱歌の似合うまちづくり」や「健康で生きがいを感じるまちづくり」を盛り込んでいる。また、市政の最重要課題として、危機管理、子育て支援、そして健康づくりの“3Kプラン”を掲げる。

■城からの眺めを自主規制で守る
 松本城周辺では、最高15−20mの高さ制限を取り入れている。ポイントは“借景”だ。つまり、周辺部から見える松本城が隠れてはいけないし、松本城から見える山々も隠れてはいけない。さらに、城からの視界として、西は北アルプスの山並みを眺望できる仰角2度、東は美ヶ原を望める同3度を確保できるように、周辺に対して自主規制を求めている。

 規制がかかる高度地区は約32.6ha、風致地区は約14.4ha。今後のエリア拡大には賛否両論あるため、町会や地権者の意見を尊重しながら検討を進めている。

 一方、マンション人気が高まり、周辺住民とのトラブルが起きているという。ただ、「規制しすぎると空洞化してしまう。高齢者も市街地に住みたいだろう」。そこで、4月から「中高層建築物の建築に係る良好な近隣関係の保持に関する条例」を施行した。高さ15m以上の建築物を計画する開発業者には、よく住民と話し合ってもらい、場合によっては市長が、中高層建築物建築紛争調停委員会に諮問した上で、あっせんできる制度とした。

■街歩きのできる道づくり進める
 松本市は、信州大学などの「学問」、アルピニストを迎える「山岳」、サイトウキネン・フェスティバルが開かれ鈴木メソッドにも縁がある「音楽」という「3ガク」をアピールしている。歴史遺産は、城のほかにも開智学校、武家屋敷、旧制松本高校など多く残っている。蔵造りの建物の保全・修復、建物の修景改修への補助にも努め、街歩きができる道づくりを進めている。

 これまでの観光振興策は「各論ばかりで戦略が足りなかった」として見直す。部局横断の観光戦略本部を設置して戦術を練っている。「城などの資源に頼りすぎた姿勢も改める」とし、サービス業や一般市民の“おもてなしの心”を育む観光ホスピタリティを推進している。地元を熟知する建設業経営者が設立したあるNPO(非営利法人)は、ベロタクシー(三輪自転車)で観光客を案内している。

 「前市長が松本市美術館、まつもと市民芸術館などのハード面をつくってくれたので、これらを生かすソフト面の充実に取り組む」としている。経済効果ばかりでなく、関心を集める効果策を展開している。

2006年7月3日付『建設通信新聞』より

五感を大切に
季節を感じられる場として
松本市長 菅谷昭
北アルプスを借景した松本城。城下町の情緒を残す市街地から、車でわずかの距離に、豊かな自然が残されている
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