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私の景観論

 火の国、水の国、森の国と言われる熊本県。その豊富な観光資源を生かした独自の景観行政は昭和48年の「美しいくまもとづくり」から始まり全国に先駆けてきたが、潮谷義子知事は、そうした蓄積を踏まえながら、ユニバーサルデザインの観点から新たな展開をしている。その考えを聞いた。

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 潮谷県政は、ユニバーサルデザイン(UD)を旗印にしている。人権、平等、弱者にやさしい社会、その施策と景観行政はどう結びつくのか。

 「景観を守るということは、未来に対して責任を持つことだと思う。未来への責任は、だれにとっても平等性を持つということで、UDの精神につながる。熊本県の景観行政には、過去において水俣病にぶち当たった長い苦しみがある。公害による、人の心の荒廃とか地域社会の荒廃ということの苦い経験の中から、美しい熊本づくりが始まったことが特徴だと思う」と明快に語る。

■人の手かけた景観生命力も長く持続
 「わたしが考える景観とは、そのままの自然の姿の価値と、もうひとつ、そこで生活する人達が造り出す、人の手がかかって維持されていく美しさがある。こうした人が関わる景観は、生命力の長い、持続可能な景観だといえるのだと思う」

 知事は県の景観行政の流れを説明する。昭和60(1985)年のくまもと緑の三倍増計画、62年熊本県景観条例、63年くまもと景観賞創設、同年のくまもとアートポリスへと続く。景観条例の制定は全国でも滋賀県、兵庫県に続き3番目と早かった。くまもとアートポリスは後世に残り得る文化的資産、地域の活性化に資する、新しい生活文化のプロジェクトをつくろうという運動で、現在、伊東豊雄氏を第3代コミッショナーとし、74プロジェクトを指定している。

 「わたしが思うに、アートポリスをつつんでいるものが、まさにユニバーサルデザインであり、単体の建築物に行き着く道路がすべての人にやさしいか、あるいは外国の人に、病んでいる人にどうか。また男女にかかわらず配慮されているか、などという問いかけの中から、アートポリスとユニバーサルデザインが一体となった時、とても素晴らしい姿がでてくる」

 その後の景観行政は、平成7年の熊本県景観整備基本計画、くまもと101景づくりなどに継承され、平成17年は「水とみどりの森づくり税」を創設した。

 今後については「県内の自治体をリードしていく役割がある。県には景観条例があり、これを景観法と照らし合わせてみると、条例には罰則や変更命令がないが、これらをどう調整するかなどは検討しながら進めたい。財政的な制約があるのでこれから大掛かりなことはできないが、地域の中で、住民、NPO、ボランティアなどパートナーシップを大事にし、景観行政団体の役割を果たしていく」と述べた。

 潮谷知事があげた県内景観3点は、まず上益城郡山都町(旧矢部町)の通潤橋。水の無い高地に通水するために架橋した、種山石工たねやまいしくによる重厚な石のアーチで、橋中央部の栓を抜けば橋上から滝のように放水される。「景観は文化と結びついている。周辺の農村では文楽ぶんらくを営み、そして稲作や生活に欠かせない橋から流れる水の透明感は虹がかかり、水の国熊本の象徴」との評。

 2番目にあげてくれたのは、天草市の島々から見下ろす夕陽のパノラマ。妙見浦、西平椿公園などの観光スポットからの景観は「本当に雄大で感動する」と。

 3つ目は、火の国・阿蘇の雲海。「幸運なら涅槃ねはん像を見ることができる。それは神々しいほど人の心を揺さぶる景観」

■同じ景色にも時代と呼吸する景観がある
 自然だけでない。「高速道路ができた時、歩道からの景観とはまったく違う光景を提示したこと。同じ景色にも、時代と呼吸する景観があることを知った」と独自の視点を語る。そして、その時代と呼吸する景観は、「これから九州新幹線が入ってくる。駅舎と一体の地域はシンボライズされたものになるはず」として展開されようとしている。

2006年5月29日付『建設通信新聞』より

ユニバーサルデザインは
未来への責任
熊本県知事 潮谷義子
水の国熊本を象徴する水と石のアーチ「通潤橋」江戸時代、水不足の八つの村を救った通水石橋
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