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私の景観論

 善光寺の門前町、真田十万石の城下町「松代」などの名所が、季節が巡るたびに美しい表情を見せる北信濃の山並みに溶け込み、多くの来訪者の心を惹きつける。一方で、近年は中心市街地の活性化が重要課題となっている。「選ばれる都市“ながの”をめざし、松代地区、善光寺周辺地区、中心市街地について、それぞれの個性を活かした景観を市民とともに創り上げたい」という鷲澤正一市長に景観行政の方向性を聞いた。

◇     ◇

 長野市では、市内各所に点在する文化財、街並を活かした街づくりが実践され、効果を挙げつつある。その一つが、史跡・松代城の復元(2003年度完成)を記念したキャンペーン「エコール・ド・まつしろ」による観光客の誘致だ。松代藩の藩校である旧文武学校を生涯学習の舞台として活用する取り組みが効を奏し、年間20−30万人だった観光客が、キャンペーンを実施した04年度は約85万人に及んだ。「いい雰囲気の中で、品格を高めることができる催しや取り組みを今後も実施したい」という。

■文化財保存には労力の積み重ね必要
 このほか、松代地区の武家屋敷内で、水道のない時代に機能していた泉水路の復元改修も行っている。「松代には活かせる部分が多い。保存・整備するには経済的な側面を含め労力を伴うが、一つ一つ積み重ねていくことが必要」と考えている。

 街並みを意識する意味で、松代地区の街づくりと方向性が似ている善光寺周辺地区では、有志を中心に「善光寺さんを世界遺産に」という運動が展開されている。善光寺は現在三門(山門)の解体復元工事を実施中で、建立当時のサワラ板を重ねる「栩とちぶき」に復元する屋根葺き工事も行い、来年に完成する。

 こうした動きへの対応や商店街の活性化、観光客の回遊性拡大・滞留時間の延長を同地区の課題として掲げている。滞留時間を延ばす仕掛けとして、「小さな旅気分を味わえるまち」をコンセプトに、大門町に残る空き店舗や土蔵などを活用したテナントミックスによる新しい商業施設「ぱてぃお大門」をオープンさせた。

 こうした歴史的な街並みを活かす一方、長野冬季オリンピック開催後の衰退で「空洞化の見本」と揶揄(やゆ)された中心市街地の活性化に向けて、00年に相次いで閉店したダイエー長野店、長野そごうの跡地活用に道筋をつけた。

 ダイエー長野店は市が買い取り、食料品店や市民交流センター、音楽練習場などが入る「もんぜんぷら座」として再生。オープン以来、2年9カ月で220万人の利用者が詰めかけた。長野そごう店の跡地では、信越放送局(SBC)などと一体となり、今秋完成の再開発施設を建設中。既存ストックの活用と再開発事業を織り交ぜた中心市街地の活性化を展開している。

■五輪施設活用したビッグイベント模索
 「こうした事業も大事だが、本当にめざしているのは都市観光ができる街。バルセロナにおけるガウディの建築のように、建物を見るために人がやってくるような街が理想。建物が一つのモニュメントとして、観光資源として評価されるような取り組みを実施したい」と考えている。オリンピック開催施設の活用についても「観光客に見て欲しい本当にすばらしい施設がある。この大事な財産を活かすことは重要なテーマ」とし、ビッグイベントの開催も模索している。多くの文化財や名所に目が向けられがちだが、「長野市の70%は人があまり住んでいない中山間地。自然の持っている魅力が一番すばらしいと思う。市内には飯綱いいづな、戸隠とがくし、大岡おおかの3つのスキー場があるが、戸隠スキー場の瑪瑙山めのうさんの頂上から見る景色は絶品。これを活かした街づくりが夢です」

 92年に「景観を守り育てる条例」を制定して景観形成に取り組んできた長野市では05年度、同年1月に合併した地域を含めた景観計画を策定するための基礎調査を実施、06年度末までに基礎調査に基づき、地域住民とのワークショップを重ねながら、景観法に基づく景観計画策定と条例改正を行いたい考えだ。

2006年5月22日付『建設通信新聞』より

松代、善光寺、
中心市街地の個性活かす
長野市長 鷲澤正一
松代城跡(松代城公園)は、江戸時代後期の城の景観が歴史に忠実に再現されている。松代地区の景観育成に一層寄与することが期待できる
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