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私の景観論

 伊丹市は2005年9月、兵庫県で初めての景観行政団体になった。大阪国際(伊丹)空港を持ち、大阪・神戸のベッドタウンとして栄えてきたが、その歴史・文化は市民にもあまり知られていない。「自分たちの街を市民に知ってもらい、愛着を持ってもらうことが先決」と“平成いたみ八景”を選定し伊丹の新たな名所、資源として内外に発信している。3月に策定した景観計画では、市域全域で大規模建築物に対する色彩の制限を決めた。街の活性化策として、景観行政を積極的に展開する藤原保幸市長に聞いた。

◇     ◇

 「伊丹市には大自然があるわけではないが、1300年前に作られた昆陽池や江戸時代からの清酒発祥の街など、素晴らしい地域資源がある。市民にこれらの資源をわが街として誇りを持ってもらうことが、市民力、地域力を高めていく大きな要素になる」と言う。

 伊丹市は古くから、京都と西国を結ぶ西国街道や多田神社への参詣道だった多田街道、昔からのメーンストリートだった大坂道など、街道町として栄え、いまも当時の面影を残す景観が多く残されている。

■江戸の面影残す日本最古の酒蔵
 中心市街地は、かつて伊丹郷町と称され、有岡城(伊丹城)の城下町として整備された。落城後は近世以降江戸積み酒造業を中心に産業のまちとして栄えた。日本最古の酒蔵(重要文化財)や町家などの歴史的建築物の保存・活用も進んでいる。

 市民の憩いの場となっている昆陽池は、奈良時代に人工のため池として造られ、今や自慢の自然景観となっている。ここでも水質浄化とともにオニバスの復活、池の中にある日本列島の形をした島に自然の森を再生するクヌギの植林、自然のホタルを取り戻す活動など、伊丹の自然景観を蘇らせる市民運動としてさまざまな活動が行われている。

 また、伊丹の地域資源のひとつである大阪国際空港の街として、空港を活かした街づくりも進める。飲食店などの集客施設による民間活力を導入し、空港周辺緑地(伊丹スカイパーク)に伊丹市ならではのビュースポットを整備する計画だ。

 「まず市民にPRし伊丹の良さを知ってもらって、知人・友人に『伊丹にはこんないいところがあるよ、おいでよ』と言ってもらえるような魅力作りが大切」とし、歴史と文化を中心として、美味しい食べ物と土産物とをセットで伊丹のブランドイメージを高めていく方針だ。「そのためには単に景観だけでなく、都市としての魅力を高めながら街を活性化することが大切。地域の付加価値を高めていくことが必要なんだということを理解して欲しい」と話す。

 伊丹市は現在の市域になったのが1955年、当時人口約7万人だったのが、この50年間で約20万人になった。「経済が右肩上がりだったこれまでは努力しなくても人口が約3倍近くに増え、それで良かったが、高齢化が進むこれからはベッドタウンだけでは都市として成り立たなくなる。都市経営面からも住宅系の都市から新たな手法を考え直さなければならない時に来ている」と、その解決策のひとつとして都市観光に活路を見いだす。

■全域対象に色彩、意匠、材料基準
 景観計画では全国的にも珍しい、全市域を対象に色彩基準を定めた。周辺環境との調和を考え、地上4階建て・15m以上、もしくは建築面積1000m2以上の大規模建築物について、新・増・改築、外観を変更することとなる修繕・模様替えまたは色彩を変更する場合の色相、彩度、明度を制限する。意匠、材料についても一定の基準を設けた。大きな看板を掲げる事業者などからの反発もあったが、ルール作りをすることで飲食店などは心地よい景観、環境ができ、お客が増えるという付加価値を生むことにもなる。

 「計画を作ることが目的ではなく、計画作りの中でその気になって、行動に移してもらうことが重要だと思っている」「従前からの自主条例を景観法に基づく条例に衣替えする。市民一人ひとりに、条例を決めてまで伊丹の景観を守っていこうと思ってもらうことが大切」と、取り組みの姿勢や景観への意識の高まりに期待する。

2006年4月17日付『建設通信新聞』より

ベッドタウンから
都市経営の転換期に
伊丹市長 藤原保幸
清酒発祥の地、伊丹郷町地区の酒蔵(岡田家と石橋家)。これら歴史ある建築物の保存・活用が進んでいる
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