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私の景観論

 荒川を隔てて東京に接する埼玉県戸田市は、東京オリンピックで会場となった戸田ボートコースなどで知られている。人口減少時代と言われるなかで年間2500人も人口が増え続けている。市民の平均年齢は37歳と若く、小学校が不足する。新設校の市立芦原小は、ことし県の景観賞を受賞、建設中からデザインが県内外の若い夫婦から人気を集め、学校周辺の地価を押し上げる要因にもなった。神保国男市長は「景観は、街のグレードを上げ、防犯や防災にさえ役立つ。これからのキーポイントだ」と語る。その考えを聞いた。

◇     ◇

 戸建てで、マンションで、商店街で――。どこでも3軒まとまれば街並み形成を助成する、戸田市の「3軒協定」は全国に紹介されている。「3軒」という手軽さと、ガーデニングなど対象の取り組みやすさ、都市計画などに比べて早い手続きが受け、年間5、6組、昨年までに19組を認定している。

■3軒協定でコミュニティー形成
 一般に「向こう三軒両隣」と言う諺通り、実は協定をきっかけに「地域コミュニティーをつくるのがねらいだ」という。「災害時には、地域で助け合うことが被害を減少させる。昔は地元で夜回りしていたように、防犯面でも役立つ」と景観行政の意外な効果を話す。

 背景には、県内ワースト1だった犯罪発生率を抑えるため、自治会に安全パトロールを促すなど、防犯行政に注力していることもある。「景観」はそのフックの一つとなった。

 3軒協定で外構を揃えた新興住宅街「中町1丁目」では、さらに周辺へ街並みづくりの輪を広げるため、景観地区の指定をめざしている。

 かつて田園風景が広がっていた戸田市は、JR埼京線が開通した1980年代からマンション乱立に会い、「きちっとした都市整備ができないまま都市化が進んだ」。こうした危機意識から、市長に就任した98年に景観行政をスタート。01年に景観条例を制定し、人口11万人に対して3人(現在は2人)の景観担当職員を配置、「市民とのパートナーシップでつくる人・水・緑 輝くまちとだ」を掲げ力点を置いてきた。

 届出対象とした大規模建築物の開発では、専門家によるアドバイザーが、建築指導とは別にデザインや色彩を指導する。事業者は採算性を問題にするが「景観に配慮して、街のグレードを上げていくことで建物価値も高まる」と説明している。事実、芦原小を目当てに県内外から転入者があり、周囲のマンションが高値で販売されたという。

 芦原小は、新しいまちづくりを進める地区のランドマークとするため、デザインに着目し、設計者選定に公募型プロポーザルを採用。シーラカンスアンドアソシエイツを選定した。ことし開校した後も「夏には、学校西側を流れる笹目川に、国の清流ルネッサンス事業で荒川から水が引き込まれる。さらに周辺を景観地区にし、多自然型の歩ける空間にしたい」と構想は広がる。

■駅に降りたてばほっとする空間
 戸田公園、戸田、北戸田の市内3駅は、都内から埼京線に乗り、最初に着く埼玉。「東京から埼玉に入り、駅を降りてほっとする空間にしたい」との考えから、埼京線・新幹線の両脇20mに設けられた緩衝地帯に「華かいどう21」と称して緑地を整備している。

 同じ考えから、現在動きがある駅前再開発についても「周辺が乱開発されるより、1カ所をきちっと、住民(地権者)の話し合いに基づいて整備した方がいい」という発想で見守る。

 鉄道のほか、東京外環自動車道の整備も、戸田市の街並みに影響を与えた。企業立地で税収が上がる反面、住宅と工業の混在が進んだ。逆に、工業地域にマンションが建つ事例もある。それぞれ「音、においに配慮してセットバックなどをお願いしている」という。

 街並みをよくすることで「住む人の意識が街に向き、自分の街をよくしようとする人が増える。その結果、さまざまな波及効果が生まれる」と、その相乗効果に期待する。

2006年1月23日付『建設通信新聞』より

街のグレードアップ、
防犯・防災に一役
戸田市長 神保国男
小泉雅生氏らの設計で知られる市立芦原小学校。地域の景観レベルばかりか、住宅需要まで引き上げている
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