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私の景観論

 岐阜県多治見市は、土岐市、瑞浪市、笠原町とともに美濃焼の産地として知られている。その多治見市は1993、94年にそれぞれ「景観形成基本計画」、「モデル地区景観形成計画」を策定し、景観行政に取り組んでいる。そして今、西寺雅也市長は景観という言葉を「風景」という言葉に置き換えて、景観行政を進めている。

◇     ◇

 なぜ、景観ではなく風景なのか。西寺市長は「風景という言葉の中には、人と街、自然、思い出とあわせ、思い入れというものが含まれている」と解説する。市民の思いを含めて、いい街にしていこうという考えが、景観ではなく、風景という言葉になった。

 同市は、1000年以上も前から、「やきもののまち」として発展してきた。市内には歴史的な蔵や屋敷だけでなく、登り窯などやきもののまちらしさを見ることができる。風景行政に力を注ぐのは「いい建物を残すのは、今がラストチャンス」であり「多治見市としての原風景が消えないよう守っていかなければならない」という、強い願いがあるためだ。

 現在、同市では06年3月に向けて「風景づくり基本計画」策定作業を進めている。策定に当たっては、方向性や社会経済環境などの変動要因の整理といった基礎調査をもとに、風景資源の抽出と風景特性の整理を行う。資源、特性は(1)自然系(2)都市系(3)文化・産業系(4)心象・活動系(5)その他に類型して整理される。

 この段階で、風景づくりアドバイザーという専門家の視点からの意見聴取とあわせ、市民のニーズや評価を加えるため、市民委員会からの意見も反映させる。こうしたステップを踏みながら、さらに風景審議会で審議しつつ風景づくりのテーマや目標、全体あるいは地区別の基本方針を策定し、素案を作成する。素案は広報誌やホームページで明らかにされ、パブリックコメントを踏まえつつ、最終的に審議会の審議を経て報告書を作成する手順になっている。

■緑被率30%以上 落ち着いた街に
 風景づくりで重視するもののひとつが緑。「緑が街の風格を作っていく。地方都市には街の中に緑がない。それを育てることで、緑をボリュームアップし、落ち着いた街にしたい」。市街地の緑被率を30%以上にするというのが目標だ。また、文化・産業系では、美濃焼の一つである織部焼を扱う陶器卸商が多かったことを生かし、97年には華やぎを醸し出すため「オリベストリート構想」を策定、同時に市の南部にある市之倉町には、窯が多いことを生かした街づくりを進める。小さな盆地という地理特性を活用し、二つの違った街の表情をつくることで、歩いて楽しめる街にしていく。これを契機に風景整備を進めていく。

 一方で、この「盆地」という地理的条件は、04年10月に定められた「美しい風景づくり条例施行規則」によって、「大規模な行為」に、大きな制限を加えた。この場合の大規模な行為とは、一定規模以上の施設(建築物、工作物、広告物、道路、公園、路外駐車場、開発事業など)の新築などであり、建築物の意匠、配置、高さ、色彩、材料、緑化のほか、道路などにも風景基準を設けた。

 とくに、その平均地盤面が標高120m以上の場合には、「風景に特別大きな影響を及ぼすおそれのある行為」として、届け出の前の協議を義務付けた。色彩についても、同市の通常の大規模な行為に比べ、より限定されたものになっている。120mという数字は「市の中心部を流れる土岐川の堤防の標高が、概ね100mであり、市街地を取り巻く、特徴的な風景となっている斜面地の始まり」から決められた。その緑を保全することが最大の目的だ。

■建築物、自然を総合的に捉える
 「風景づくり」の背景には、ただ単に「モノ」の美しさだけでないとの考えがある。「目に見えるものだけでなく、その背後にある歴史や文化など、人の心の中にあるものを反映する」と指摘する。そのため「個々の建築物や街並み、自然などの景観を個別に評価するのではなく、総合的にとらえ、誘導することで、多治見らしい美しい風景を後世に残していきたい」

2005年12月12日付『建設通信新聞』より

市民の思い入れ込め
「風景」づくり
多治見市長 西寺雅也
歴史的な蔵や屋敷だけでなく、登り窯などやきもののまちらしさを見ることができる
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