◆“地域らしさ”の意義と方法

美し国づくり協会理事長 進士 五十八氏 大事な郷土樹木、地場材料、地方技術

 

 「美(うま)し国」という言い方に拘っているのは、「美し」というのは大和言葉であり、日本の美しさです。ここでいえば小国の美しさです。

 近代以降の日本は、西洋を追いかけてきた。合理的に考え、西洋の学問をどんどん入手してきました。今日、「地域らしさ」を掲げたのは、そのためです。

 風景は土地によってみんな違うのです。地質が違う、地形が複雑で変化に富んでいる。植生、植物も違うのですから風景も違うのです。

 小国町の面積は東京と同じですが、全然違いますよね。ミクロコスモスだと思います。1つの宇宙をつくっている。精神的な独立国でも良い。

 8月の半ばに上海の広州と滄州に行ってきました。池はほんと汚い。小国は、ほんと綺麗な水が流れている。綺麗な澄んだ水が普通に流れている。外国に比べると日本はもったいないだらけです。それだけ恵まれている。

 人口が減っていることで絶滅危惧種かというとそういうことはなく、適切な密度があるから過疎といいますが、それが普通だと思えばいいわけ。日本は既に人口のピークは終わっているのですから。

 私は環境教育というのを昔から応援してきた。少子化で子どもを一人か二人しか生まなくなり、大事に、丁寧に育てている。昔は良い加減に育ってきた。

 粗放農業という言葉がありますが、粗放養育だったんですよ。今は集約型養育だから、徹底して投入するから子どもはだんだん脆弱になっている。

 環境教育でもっとも大事なのは、クルト・ハーンという方が言っていることですが、体験です。「大人は自分の考え方を子どもに押し付けちゃいけないけれども、体験してみろと、一回やってみろと、それは強制しなさい」と。

 いざという時の判断力、例えば火事が起きた時や、雪で滑った時は、知識ではなく体で覚えていなくてはならない。そういう意味では、「過疎も教育資源」ということがよく分かります。こういう環境にいるからこそ、本物の人間が育つ場所だということです。

 すべての人類は自然風土の中で最高の場所、最良の空間・環境を神様、仏様のいる世界に描いて、それを憧れました。それが段々、建築家やデザイナー、造園家が具体化してきました。

 キリスト教のエデンの園や古代ギリシャのアルカディア、中国の桃源郷では桃の花で、仏教ではハスの花、キリスト教ではユリをとても大事にしてきました。それぞれの宗教が成り立った環境、風土が根っこにあるということをわれわれは忘れないようにしたいですね。

 町もそうだと思います。よそゆきの町は駄目なのです。普段着の町、居心地の良い町、着心地の良い着慣れた町というと、町の隅々まで自分の頭に入っていて、スッと手が届くところに欲しいものがある。そんな環境が“ふるさと”なんです。

 五感で感じるのがふるさとです。ふるさとはからだ全部で受け止めているのです。そういう皆さんのお子さんか、お孫さんが日本を決めるんです。知性も大事ですが、21世紀で1番大事なのは感性だと思います。

 誰も考えないようなユニークなアイデアは自分の中からしか出ないのです。日本の社会にはそういう子どもが大事になります。単に点数が高いだけの子どもは東京からいっぱい出ますから。それを越える人材はこの土地から出すことです。

 結論は、郷土樹木、 地場材料、地方技術が大事だと強く言いたい。それが地方の地域らしい景色をつくるからです。

 こんな立派な校舎で勉強するのだから、小国ならではの教育をしてほしいと思います。このふるさとを愛して、自然の中に可能性を見出して、豊かな生き方をしてほしい。そういうことを皆さんがしっかり体験して、お子さんやお孫さんに伝えてほしい。

1013090進士五十八・理事長

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